全身性エリテマトーデス
概略
全身性エリテマトーデス(SLE: Systemic lupus erythematosus)は皮膚、関節や全身の多臓器に障害を来す膠原病、自己免疫疾患です。Systemic(全身性の) lupus(狼:ラテン語) erythematosus(紅斑)つまり、〝全身に狼にかまれたような紅斑が出現する病気〟がその語源です。他の膠原病同様圧倒的に女性に多く、男女比は1:9と言われています。発症年齢は20-40代、特に20代に発症のピークが見られます。比較的明確な人種差が見られ白人種に比べ、黒人種、アジア人種の発症頻度が多いと言われています。我が国では人口100万人あたり約100名の患者さんが存在する様です。
原因は他の膠原病同様、遺伝的因子に環境因子が加わって発症すると言われています。例えば一卵性の双子(遺伝子が全く同一)が双方でSLEを発症する確率は約25%程度という研究結果もあります。つまり、SLEの遺伝的な素質をお持ちでも、それが発症の絶対条件ではないのです。
環境的な要因としては紫外線への暴露、性ホルモン、喫煙、ある種のウイルス感染、妊娠・出産などが契機になって発症すると言われています。
※国が定める指定難病です。
SLEの臨床症状
■全身症状
発症時から発熱、全身倦怠感、体重減少、食欲不振などを自覚することが多く、膠原病と疑うまでは診断までに延々と時間を要することがあります。発熱の場合半数以上が38度以上の体温を示し、常に感染症との鑑別が必要です。
■皮膚粘膜症状
SLEは多彩な皮膚症状を認めますが、その中でも特に下記に示すような皮疹が特異的です。
・頬部紅斑:SLEの最も特異的な急性の皮疹で、典型的には蝶が羽を広げた様に現れるため、別名蝶形紅斑(Butterfly rash)とも言います。皮疹は鼻唇溝(いわゆるほうれい線)を避ける傾向があります。
・円板状皮疹(Discoid rash) :SLEの約20-30%に合併する慢性の皮疹で、見た目は円形で頭部、顔面、頚部に認めることが多く、頭皮に出現すると毛根部が障害され脱毛を来すことがあります。
・脱毛:上記の円板状皮疹による脱毛を含め、SLEの約半数程度に脱毛を認めると言われています。
・光線過敏:SLEにとって紫外線への暴露は増悪因子となります。長時間の海水浴や登山などが病状を悪化させる可能性があります。
・レイノー現象:寒冷刺激(冷水や冷たい外気に触れる際など)によって指先に循環障害を来し、典型的には白→紫→赤への色調変化(3相性変化)を来します。SLEの約30%に認めます。
■粘膜症状
・鼻腔・口腔内潰瘍:口の中、鼻腔の粘膜に潰瘍を認めます。口の中では特に硬口蓋(上顎の堅い部分)に多発します。通常無痛性で、患者さん自身は自覚が無いことが多い所見です。
■関節症状
患者さんの約90%以上に認め、上記の全身症状とともに、自覚することが多い症状です。関節リウマチ同様に左右対称に出現する関節の痛み、腫れで、朝方や休憩後に顕著に表れます。ただし、関節リウマチの関節症状と異なり骨や関節自体の破壊は来しません。
■漿膜炎(しょうまくえん)
胸膜、心外膜、腹膜などの漿膜(臓器の表面や体の内部の閉鎖空間を覆う薄い膜組織)に炎症を来たし、浸出液が貯留します。
閉鎖空間に体液が貯留するため肺や心臓などの重要な臓器を圧迫するため、早期の治療介入が必要です。
■腎症状
別名ループス腎炎(Lupus nephritis)とも言います。SLE患者さんのおよそ40%に生じ、SLEの臓器障害の中では最重症の病態の一つに数えられています。最近は免疫抑制療法の進歩によりその予後は著しく改善されつつありますが、それでもSLEが原因で腎不全から透析に至る患者さんも年間250名程おります。尿検査で蛋白尿、血尿、細胞円柱が検出されることが発見の発端になります。急激に腎障害が進行すると、ネフローゼ症候群(腎臓のフィルター機能が障害を受け、体のタンパク質が体外へ漏出)、急性腎不全に陥ることがあります。
確定診断するためには極力腎生検(腎臓から組織を採取する方法)を行い国際的に決められた病理診断基準に照らし合わせて治療方針を決定します。
■精神神経症状
別名中枢神経(CNS)ループスと言い、SLEの最重症病態の一つと考えられています。軽度のものでは頭痛(lupus headache)や髄膜炎症状、重度のものになるとけいれんや錯乱、麻痺症状で発症する事があり患者さんの生命予後にも影響を与えます。
特にSLEの治療で用いられるステロイドでも類似の症状(ステロイド精神病)を来すことがあり、両者の鑑別には脳波検査や髄液が必須になります。
■血液異常
SLEでは様々な血液異常を来します。ありふれた所見としては白血球減少の他に、様々なタイプの貧血を認めます。特に「自己免疫性溶血性貧血」では患者さん自身の自己抗体によって溶血(赤血球が破壊)が引き起こされ、重度の貧血を発症します。同様の機序が血小板(止血のための細胞)に向かうと「免疫性血小板減少性紫斑病」が生じ、止血困難な出血を来します。また、まれに「血球貪食症候群」と言い、骨髄の中でマクロファージという貪食細胞(どんしょくさいぼう:文字通り周りの細胞をむさぼり食う異常細胞)の影響で血液中の3系統の細胞(白血球、赤血球、血小板)が極端に減少する病態が発症します。
また、SLEの血中には様々な自己抗体が検出されます。その最もありふれた一例が抗核抗体(こうかくこうたい)で、さらに抗DNA抗体、抗Sm抗体などはSLEにより特異性が高いと考えられています。また、免疫の病的な活性化に伴い補体(ほたい:免疫関連のタンパク)が過度に消費され、低補体血症が引き起こされます。
SLEの治療について
■ステロイド
上記の臨床症状のうち、全身症状、皮膚粘膜症状、関節症状に対しては少量から中等量のステロイド内服薬や外用薬(塗り薬)が用いられます。また、漿膜炎や、血液異常に対しては中等量から高用量のステロイド、またループス腎炎や中枢神経ループス等の最重症の病態に対しては大量のステロイド(ステロイドパルス療法)の他に下記の免疫抑制療法が併用されます。
■免疫抑制剤
ループス腎炎や、中枢神経ループスなど重篤な病態に対しては、ステロイドと平行してシクロフォスファミド(商品名:エンドキサン)などの強力な免疫抑制剤が並行して使用されます。特にループス腎炎の場合、急性期を過ぎた病態に対してミコフェノール酸モフェチル(商品名:セルセプト)やタクロリムス(商品名:プログラフなど)、シクロスポリン(商品名:ネオーラルなど)などの比較的マイルドな免疫抑制剤を併用することによりステロイドの減量がスムーズに行え、病気の再発予防にも有効性が確認されています。
■ヒドロキシクロロキン(抗マラリア薬)
抗マラリア薬であるヒドロキシクロロキン(商品名:プラケニル)が2015年9月から我が国でも使用可能になりました。欧米ではSLEの古典的な治療薬として日常的に使用されていますが、日本では過去に使用されていた同系統の薬剤(クロロキン)で網膜障害による失明事例が報告されてから使用が禁じられていました。現在使用されているヒドロキシクロロキンはSLEの再発率を改善させる作用や、特に皮膚病変に有効であることから、欧米の学会では基本的には全例使用されるべき薬剤と位置づけられています。もちろん薬剤による網膜症のリスクは皆無とは言えないため、眼科医と連携しながら使用すべき薬剤だと思います。
■分子標的薬・生物学的製剤
リツキシマブ(商品名:リツキサン)は免疫細胞の表面に存在するCD20という分子を標的とした薬剤です。元々悪性リンパ腫の治療薬として多く使用されている薬剤ですが、SLEにも治療薬としての可能性が注目されています。
ベリムマブ(商品名:ベンリスタ)は可溶性BAFF(BlyS)というSLEの病勢にかかわる分子を阻害する生物学的製剤です。1週間毎に自宅での自己注射も可能です。
アニフロルマブ(商品名:サネフロー)